CRETのコラム Colomn

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PISA2015 協働的問題解決力の結果が公表されました

特定非営利活動法人教育テスト研究センター 研究員 宮 和樹

 

OECDが2015年に実施したPISAについて、協働的問題解決力の調査結果が公表されました(2017年11月22日)。すでに一般の新聞などでも、日本がシンガポールに次ぐ2位であったこと、全体の傾向として女子のほうが男子よりも成績が良かったこと、周りに配慮しすぎて誤答する傾向があったこと、などの報道がなされています。

このコラムでは、OECDが公開した資料を元に、今回の調査の概要を見るとともに、実施結果を簡単に分析してみたいと思います。

 

【協働的問題解決力とは】

PISA2015において、協働的問題解決力は次のように定義されています。

 

二人以上とともに問題を解決する状況において、分かっていることや解決に必要な努力を共有したり、参加者の知識や技能、解決に向けての努力を結集したりする過程に、効果的に取り組む個人の能力

 

この表現をさらに詳しく、評価の枠組みレベルまで分解したものが以下の表になります。この枠組みでは、PISA2012で測定した4段階のプロセスからなる個人の問題解決力の定義(下表の(A)~(D))と、協働的問題解決力としての3つの能力(下表の(1)~(3))をかけ合わせた、12の能力を協働的問題解決力としています。

PISA2015における協働的問題解決力の定義
PISA 2015 Results (Volume V) Collaborative Problem Solvingより)

 

12の協働的問題解決力は、以下のとおりです。

 

(A1)チームの仲間の視点と能力を発見する

(A2)目標に向けて問題を解決するための、協力の仕方を発見する

(A3)問題解決のための、自分の役割を発見する

(B1)問題解決のための共通の視点を築く

(B2)取り組むべきタスクを把握し、説明する

(B3)コミュニケーションのルールなど、組織としてのチームの役割を説明する

(C1)取るべき行動について、チームの仲間とコミュニケーションする

(C2)計画を実行する

(C3)課題に取り組む際のルールに従う

(D1)共有された情報を常に最新のものに保つ

(D2)実行結果をチェック・評価する

(D3)チームの仲間にフィードバックを返し、組織やそのルールを改善する

 

PISA2015で出題された問題は、各々この12の能力のうちのいずれかを測定しています。問題の中で提示されるタスクは、以下の3タイプに大別されます。

 

Jigsaw or hidden-profile tasks
各メンバーは異なる情報やスキルを持っている。そのため、全員の情報やスキルを集めることが問題解決のために必要になる。チームメンバーの誰が欠けても、ゴールに到達することはできない。

 

Consensus-building tasks
グループのメンバー各々の視点や意見、議論を踏まえた上で、グループとして結論を出す必要がある。全てのメンバーが良い意見を出しており、かつ効率的で注意深い考慮がなされていることが、良い解決策の条件である。しかし、会話を支配し、他の人に発言させないメンバーがいることがあり、その場合適切な判断ができない「集団思考(group think)」に陥る恐れもある

 

Negotiation tasks
チームメンバーの目標が一致していない状況で、各々の目標とチームとしての目標の両方を満たすような解決策を見出すために交渉しなければならない。

 

この中には、グループで何かを新たに生み出すようなタスク(group production tasks)は含まれていません。PISA2015は全てコンピュータ上で実施されたため、このようなオープンエンドな問題は実施できなかった、と報告書で述べられています。

OECDのウェブサイトでは、実際に出題された6つの問題のうちの1問が公開されています。日本語版も利用可能ですので、興味のある方はご覧ください。

 

実施結果の分析】

前項では、PISA2015では協働的問題解決力をどのように定義し、どのような形式の問題が出題されているかを見ました。この項では、実際の実施結果を、日本を中心に分析したいと思います。

 

■日本は分厚い中間層によって高い平均点を得ている

今回の調査では、一つ一つの問題の難易度をLevel 1~Level 4の4段階に分け、各難易度の問題をどのくらい正解できたかによって、個人の結果をBelow Level 1(Level1に達していない)~Level 4の5段階に分けています。日本はLevel 2以上だった生徒が全体の89.9%を占め、これはOECD平均の71.9%を大きく上回っています。また、シンガポールの88.6%もわずかに上回っています。また、Level 2とLevel 3という中間層の生徒の割合を見ると、日本は75.8%であるのに対して、シンガポールは67.2%、OECD平均は64.1%となっています。日本とシンガポールはともに高い平均点を取った国ですが、シンガポールはLevel 4の優秀層が多いのに対して、日本はLevel 2~3の中間層が多いという違いがあることが分かります。

 

日本、シンガポール、OECD平均の各レベルの割合
PISA 2015 Results (Volume V) Collaborative Problem Solvingをもとに筆者が作成)

 

■どの国でも、女子のほうが男子よりも良い結果を出している

調査結果を性別で分けて見ると、どの国でも、女子のほうが男子よりも高い得点を取っており、その差はOECD平均で29点でした。PISAの他の3科目(科学、読解、数学)の成績を考慮した場合でも男女の差は25点ありましたが、社会的・経済的な差や移民であるかどうかは、協働的問題解決能力の高さとは関係がありませんでした。

日本でもこの傾向は同様で、女子のほうが男子よりも平均で28.8点高い点数を取っていました(科学、読解、数学の成績を考慮した場合)。

 

■relationshipを大切にする生徒とteamworkを大切にする生徒の差

PISA2015では、以下の8つの質問によって協働に対する態度も調査されました。各質問はrelationships(対人関係)を大切にする指標に含まれるもの、またはteamwork(チームワーク)を大切にする指標に含まれるもののどちらかに分類されています。また、各質問に対して、とてもそう思う―そう思う―そう思わない―まったくそう思わない の4段階で回答されています。

協働に対する態度を聞く質問一覧
PISA 2015 Results (Volume V) Collaborative Problem Solvingをもとに筆者が作成)

 

この調査の結果、全体的な傾向として、女子はrelationshipを大切にし、男子はteamworkを大切にするという差が見られることがわかりました。

 

女子はrelationshipを大切にし、男子はteamworkを大切にする
PISA 2015 Results (Volume V) Collaborative Problem Solvingより)

 

 一方国別の結果を見ると、relationshipを大切にする指標の高低は、協働的問題解決力の得点とまったく相関がありませんでしたR20.00。また、teamworkを大切にする指標の高低は、協働的問題解決力の得点と若干の負の相関が見られましたR20.11

 

relationshipやteamworkを大切にすることと協働的問題解決力の得点の関係
PISA 2015 Results (Volume V) Collaborative Problem Solvingより)

 

さらに、relationshipやteamworkを大切にしていると答えた生徒としていないと答えた生徒を分けると、それぞれの集団で協働的問題解決力には差が見られることが分かりました。生徒の性別や生徒・学校の社会的・経済的な差を考慮に入れると、relationshipsを大切にしていると答えた生徒は、していないと答えた生徒よりも高く得点しているのに対して、teamworkを大切にしていると答えた生徒は、していないと答えた生徒よりも低く得点しているという結果が見られました。ただし、PISAの他の3科目(科学、読解、数学)の成績を考慮した場合は、relationshipsとteamworkともに、大切にしていると答えた生徒の方がしていないと答えた生徒よりも高く得点していました。
このように、relationshipやteamworkを大切にしているかどうかと、協働的問題解決力の成績の関係は、データの切り方によって見え方が大きく変わっていることが分かります。

 

relationshipやteamworkを大切にしていると答えた生徒としていないと答えた生徒の得点差
(上:他3科目の成績を考慮する前の結果 下:他3科目の成績を考慮した後の結果)
PISA 2015 Results (Volume V) Collaborative Problem Solvingより)

 

【まとめ】
ここまで見てきたように、今回の調査結果からは様々な角度から協働的問題解決力に関する示唆を得ることができます。一方でOECDの報告書でも述べられているとおり、今回の調査が協働的問題解決力の全てを測定できているわけではないことには注意が必要です。このようなテストで測定できる能力とはどのようなものかということを考えながら、結果を見ていくことが大切となるでしょう。

なお、より詳しく調査結果を知りたい方は、OECDが公表している報告書をご覧ください。
PISA 2015 Results (Volume V) Collaborative Problem Solving
OECDは日本についてのカントリーレポートも公開しています。
Country Note Japan
 
(本文中の日本語訳は全て筆者による。)

宮 和樹 -Kazuki Miya-

CRET研究員

趣味:芸術鑑賞(特に現代アート)、映画鑑賞
研究テーマ:カリキュラムコード化、PBLなど

コラム

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2012-07-17

CBTとPBTを比べて思うこと

新井 健一

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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筑波大学 人間系
博士(心理学)

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東京工業大学 名誉教授

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