CRETのコラム/レポート Activities

CRETから、最新の教育・テストに関する世界の動向などをお届けします。

第1回:なぜ今、高等学校において「eポートフォリオ」が求められているか

(全2回シリーズで、eポートフォリオに関するコラムをお届けします。)

 

 2020年度に実施する2021年度入学者選抜から大学入試が大きく変わります。新学習指導要領では、「何を教えるか」という教師側からの視点ではなく、「何をどのように学ぶか」という生徒側からの視点に立った“主体的・対話的で深い学び”(アクティブ・ラーニング)が強く求められ、習得した資質・能力をどう活用し、そして「探究的な学び」にいかにつなげていくかがポイントとされています。こうした学びの変化に対応して、「学力の3要素」である「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を多面的・総合的に評価することが必須となり、それに併せて、大学入学者選抜も変わるのです。これは、顔の見えない一発学力試験を中心とした選抜から、一人一人の顔が見える選抜への変換とも言えるでしょう。特に新入試では、難関国立大学も含めた多くの大学が、学校推薦型選抜(推薦入試)や総合型選抜(AO入試)の定員を大幅に増やし、一般選抜(一般入試)でも、学力試験だけでは測れない主体性等の評価に基づく選抜を取り入れようとしています。それに伴い、調査書や推薦書、志願者本人の記載する資料等のウェイトが高まると共に、eポートフォリオへの期待が急速に広がっているのです。

 

 そもそも「eポートフォリオ」とは何でしょうか。なぜ、ずっと続いてきた入試のスタイルを変える必要があったのでしょうか。私は、先生方を対象とした研修会や講演のなかで次のような例え話をします。

 

もし私が、この研修会の講演を始めるにあたって「先生方の教師としての力量を知りたいのでテストをする」と言ったらどう思われますか?きっと「おい、ふざけるなよ!いったいどんなテストをやったら今まで培ってきたいろいろな力を測れるんだよ?」と言うのではないでしょうか。また「やるならやるで事前に知らせて欲しかった。どんな問題が出題されるのか…」とも。先生方は、新任の時から確実に比べものにならないくらい、多くのことを学び、成長しています。しかし、どんなテストを作っても、すべての先生の教師力をリアルに測ることは不可能です。これがテストの限界です。しかし、先生方に今までの自分の主な授業記録や、普段の授業や行事での写真・動画、それと、何人かの同僚の先生や上司、生徒からのインタビューを見せてもらい、それらを指差しながら少しの時間お話しするだけでも、その先生がどのような実力の持ち主で、どんな思いを持ち、何を目指して教壇に立っているかさえもリアルに知ることができるのではないでしょうか。これが、ポートフォリオの力です。

 

 人が有する資質・能力は、よく氷山に例えられます(図1)。氷山は、水面から見える部分は小さいのですが、水面下はその何倍もの大きな塊から成っており、この部分が大きければ大きいほど安定します。資質・能力では、「知識・技能」が水面の上の小さな部分に例えられ、テストで容易に測ることができるものです。実は、この「知識・技能」を実際に学びに活かしていく(活用する)ためには、水面下の大きな塊の部分にあたる資質・能力をしっかりと有していることが不可欠です。これらが「問題解決能力」や「協働する力」などのテストでは測ることが難しい(いわゆる「主体性等の評価」に関係する)資質・能力であり、eポートフォリオを用いることで多面的・多角的に評価することが可能になります(図1)。

 図1 資質・能力の氷山モデル

 

 つまり、eポートフォリオとは、生徒自らが、学習活動を振り返って次につなげる主体的な­学習過程における様々な学びの電子的な記録であり、継続的に蓄積することで、生徒の変容を見える化する「学びのアルバム」になります。これらは、学習成果の証拠(エビデンス)になるだけでなく、時空を超えて⽣徒の学びをつなげてくれる教材になったり、良さや可能性、進歩の状況を⾒える化するツールになるため、⽣徒中⼼の学びには⽋かせないものと言えます。特に、生徒は、eポートフォリオを記録したり、見返したりするときに自問自答が起き、学びの振り返りが促されます。教師は、生徒の学習状況の把握が可能になるため、多面的・多角的な学習評価の実施が容易になるのです。

 

 よく新入試に対応する調査書や活動報告書等の出願書類をeポートフォリオと呼ぶケースが見受けられますが、それはeポートフォリオの一側面に過ぎません。生徒の学習過程における密な学びを継続的に支え、多面的・多角的な評価を支援するツールがeポートフォリオです。はっきり言えることは、eポートフォリオを貯めることは目的ではなく手段です。

 

 しかし、入試を前に、生徒自らが活動報告書を作成する際にもeポートフォリオは有効に働きます。生徒は、3年間を通して蓄積された沢山のeポートフォリオの中から「これだ!」というものを精選し(これを「ショーケース・ポートフォリオ」と呼ぶ)、直接見て当時の様子や思いを想起しながら文章に表現していきます。その時に、特に、どのように学びに取り組み、何ができるようになったか、そこから得た教訓、今後どう活かしていきたいかなどについて­振り返ることで、再びたくさんの気づきが起きてきます。まさに、この活動自体が、生徒が学び過ごした日々の総括的な学びの振り返りの場になり、「キャリア形成に欠かせない学び」そのものとなります。総合型選抜や学校推薦型選抜における面接やプレゼンテーションなどの際には、自身のeポートフォリオを見ながら活動報告書を自ら書き上げた経験が、生徒の自己肯定感を高め、その場で取り繕うことなく、自分の言葉で自身の学びの成果や成長について、自信を持って表現することができるようになるのです(図2)。

 図2 活動報告書作成イメージ

 

第2回「eポートフォリオの活用法」につづく 

(CRET連携研究員 森本 康彦)

 

森本 康彦 -Yasuhiko Morimoto-

CRET連携研究員、東京学芸大学 情報処理センター 教授

研究テーマ:教育工学、とくにeポートフォリオ、eラーニング、ICT活用教育、学習評価、情報モラル教育を専門としている

コラム/レポート

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2017-10-25

AI時代の教育

新井 健一

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。

相川 充

-Atsushi Aikawa-
筑波大学 人間系
博士(心理学)

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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。

赤堀 侃司

-Kanji Akahori-
東京工業大学 名誉教授

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