CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

日本心理学会第84回大会 発表報告
「身近な役割モデルの存在と英語学習の関連―制御焦点に着目して―」
「誘惑対処方略の有効性における学業目標の重要度と困難度の影響―日誌法による検討―」

2020年9月8日~11月2日にかけ,日本心理学会第84回大会が開催されました。大会はバーチャル形式で行われ,三和研究員と湯が参加し,発表を行いました。

 

今年の大会は,例年のように参加者と発表者が対面で意見交換ができないものの,開催期間が長期に渡って設定され,リアルタイムのWeb会議,動画ストリーミング配信,スライド掲示など多様な発表形式が活用されていました。大会はどこからでも参加でき,じっくり吟味できるよい情報交換の場となったことを感じました。

 

ポスター発表は,2ヶ月の間に,大会参加者に研究紹介のスライドを閲覧して頂くという形式で行われていました。相川研外山班は,実際の学習場面に着目した2つの研究について発表を行いました。三和研究員は「身近な役割モデルの存在と英語学習の関連―制御焦点に着目して―」について発表を行いました。この研究では,英語学習という文脈において,身近な役割モデル(「なりたい人」のようにポジティブな役割モデル,「なりたくない人」のようにネガティブな役割モデル)の有無と制御焦点(促進焦点,防止焦点)が学習の動機づけおよびパフォーマンスに与える影響を検討しました。研究の結果,促進焦点が高い場合,身近にポジティブな役割モデルがいないよりもいる場合のほうが英語テストの点数が高いことが示されました。防止焦点が高い場合,役割モデルに有無による動機づけや成績の差がみられず,今後検討の余地があります。三和研究員の研究より,英語学習において他者が動機づけや成績に及ぼす効果は学習者個人の特徴によって異なることを実証された点で意義があると言えます。

 

湯が「誘惑対処方略の有効性における学業目標の重要度と困難度の影響―日誌法による検討―」について発表を行いました。この研究では,日常の学習場面において,誘惑対処方略と目標優先行動の関連は,学業目標の重要度と困難度によって異なるかどうかについて検討しました。研究の結果,誘惑対処方略によって異なる特徴がみられました。「目標意味確認方略」(目標そのものや目標を達成する意味について再確認する方略)と目標優先行動の関連は,目標の重要度と困難度によって異なりました。具体的には,目標の重要度を高くまたは目標の困難度を低く認知している場合,目標意味確認方略の使用により目標優先行動が促進されました。目標の重要を比較的低くまたは目標の困難度を高く認知している場合,目標意味確認方略の使用による効果はみられませんでした。「目標実行方略」(とにかく目標に向けて行動する方略)は,目標の重要性にかかわらず,目標優先行動を促進しましたが,目標の困難度によって目標優先行動に対する影響が異なりました。具体的には,目標の困難度を高く認知している場合,目標実行方略の使用により,目標優先行動が促進されましたが,目標の困難度を低く認知している場合,目標実行方略の使用による効果はみられませんでした。「誘惑回避方略」(誘惑について考えないようにしたり,誘惑のない環境を作る方略)については,目標の性質にかかわらず,目標優先行動を促進しました。こうした結果から,誘惑対処方略を効果的に使用するためには,目標の性質を考慮する必要性が示されました。

 

今回の発表は,参加者から直接ご意見を頂くことができなかったものの,他の研究者の発表内容をじっくり視聴・閲覧することを通して,今後の研究への示唆が得られました。特に,量子科学技術研究開発機構の南本敬史先生による招待講演では,報酬を獲得するための行動の動機づけについて,その脳内制御のメカニズムに関する数理モデルを提案し,動機づけの脳内制御に関わる神経物質の観点から,動機づけの低下をドーバミンの低下にかかわるインセンティブ依存的なものと,セロトニンの低下にかかわるインセンティブ非依存的なものの2つに区別する知見が紹介され,興味深く視聴させていただきました。研究アプローチが異なるものの,教育領域における動機づけ研究の知見とどのように統合していくのかについて考えさせられました。

 

今年の大会のテーマは,「多様化が革新を生む」であり,研究背景や研究アプローチの多様化の中で,心理学が革新していくという期待が込められているそうです。今後,我々の研究においても,異なるアプローチからの知見の吸収・統合に留意しつつ,新しいアディアを生み出していきたいと思います。

 

(CRET連携研究員 湯 立)

 

三和 秀平・外山 美樹・長峯 聖人・湯 立・海沼 亮・相川 充(2020).身近な役割モデルの存在と英語学習の関連―制御焦点に着目して―.日本心理学会第84回大会発表抄録集,207.

 

湯 立・外山 美樹・三和 秀平・長峯 聖人・海沼 亮・相川 充(2020).誘惑対処方略の有効性における学業目標の重要度と困難度の影響―日誌法による検討―.日本心理学会第84回大会発表抄録集,200.


湯 立 -Li Tang-

CRET連携研究員 / 筑波大学 人間系 特任助教

趣味: 旅行、読書

学習の動機づけや自己調整に興味を持っています。特に興味の発達について研究を行っています。

研究発表論文

2020-07-14

教育テスト研究センター年報 第5号 2020年7月

相川 充

赤堀 侃司

加藤 由樹

加藤 尚吾

竹内 俊彦

舘 秀典

稲垣(藤井) 勉

澤海 崇文

北澤 武

若山 昇

宇宿 公紀

安西 弥生

外山 美樹

小林 輝美

湯 立

長峯 聖人

三和 秀平

酒井 智弘

海沼 亮

能渡 真澄

澄川 采加

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。

相川 充

-Atsushi Aikawa-
筑波大学 人間系
博士(心理学)

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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。

赤堀 侃司

-Kanji Akahori-
東京工業大学 名誉教授

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