CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。
教育システム情報学会研究報告(ICTを活用した学習支援と教育の質保証/一般)発表報告
「ブレンディッドラーニング環境における携帯電話を対象としたテスト配信システムの開発と評価 -学習者のテスト接近・回避傾向に着目して- 」
2012年7月15日に、北海道大学情報教育館で開催された教育システム情報学会(JSiSE) 2012年度第2回研究会に参加し、「ブレンディッドラーニング環境における携帯電話を対象としたテスト配信システムの開発と評価―学習者のテスト接近・回避傾向に着目して―」と題して発表を行いました。
本研究の背景として、高等学校の教科「情報」の必修化に伴い、年々、新入生の情報に関するスキルが変容していることから、大学における情報教育の授業改善が求められていることと、FD(Faculty Development)の義務化により、大学では授業時間外学習の促進や学生の学力向上や知識定着を目指した授業改善が求められていることが挙げられます。上記の課題を解決するために、大学情報教育で取り組まれていることの一つとして、対面授業とeラーニングシステムを融合した「ブレンディッドラーニング(Blended Learning)」がありますが、この問題点として、eラーニングシステムによる授業時間外学習の持続と知識定着が困難であることが指摘されています。
そこで本研究では、昨今では9割以上の大学生が携帯電話を所持していることから、いつでもどこでもこれで学習が行えるモバイルラーニング(mラーニング)に着目しました。
mラーニングによる大学生の授業時間外学習の促進と知識定着を追究するため、本研究では、情報系選択科目受講生95名(携帯電話所持者)を対象に調査を行いました。具体的には、受講生の携帯電話に全10回(10講義分)のテスト配信を行い、実施率や正答率を分析しました。さらに、システムに関するアンケート調査を行いました。また、テストによる知識定着を図るためには、学生のテスト観に着目することが重要であることから、上記の評価は学生のテスト接近・回避傾向と関連させて分析を行いました。
分析の結果、テスト接近傾向の学生は90.5%、テスト回避傾向の学生は86.2%の実施率であったことから、携帯電話を対象としたテスト配信システムは、授業時間外学習の支援として有効である可能性が示唆されました。さらに、テスト接近傾向の学生はテスト回避傾向の学生よりも、配信テストの正答率が高いことが分かりました。アンケート調査の結果、テスト接近傾向の学生はテスト回避傾向の学生よりも1回につき5問のテスト配信では問題数が少ないと感じ、かつ、他の授業でもテスト配信システムを実施して欲しいと回答した割合が大きいことなどが分かりました。
今後の課題として、1)テスト問題の表示や問題数の検討、2)テスト配信のタイミングの検討、3)テスト配信にすぐに、かつ、何度も実施させるための方略を検討すること、4)授業に対する意欲、理解度との関連分析、5)知識定着度の継続的な分析などが挙げられます。
最後に、本研究会では多くの先生方からアドバイスをいただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
「ブレンディッドラーニング環境における携帯電話を対象としたテスト配信システムの開発と評価 -学習者のテスト接近・回避傾向に着目して- 」(北澤 武)
(CRET連携研究員 北澤 武)
コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。
相川 充
-Atsushi Aikawa-
筑波大学 人間系
博士(心理学)
コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。
赤堀 侃司
-Kanji Akahori-
東京工業大学 名誉教授