CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

The Joint SELF Biennial International Conference and Educational Research Association of Singapore (ERAS) Conference発表報告

~Are Explicit and Implicit Shyness Affected by Social Experiences? (顕在的シャイネスや潜在的シャイネスは社会的経験の影響を受けるのか?)~

2013年9月9日から11日にかけて、シンガポールの南洋女子中学校にて開催されたThe Joint SELF Biennial International Conference and Educational Research Association of Singapore (ERAS) Conferenceに、連携研究員の澤海研究員と参加し、発表を行いました。この学会は以前 (2012年) に参加したInternational Congress of Psychologyのようにメジャーな大会ではありませんが、「自己 (self)」に関わる種々の概念を扱う研究者が集う、「自己」に特化した大会です。

 

会場となったシンガポールは湿度が高く、蒸し暑く感じました。一方で、建物内は空調が強めに効いているところが多く、体調の管理に注意が必要でした。街では英語と中国語が入り乱れており、英語も発音がかなり違って聞こえるなど、文化の違いを感じました。食事では、シンガポール名物の「ラクサ」という食べ物を初めて食べました。ターメリックやガランガルと呼ばれる香辛料が効いた東南アジアの麺料理で、何とも形容しがたい味ですが、よい意味でクセになる味わいで、連日食べに通いました。

3日間とも、昼食は学会会場で用意されていたほか、コーヒーブレイクの際の間食も充実していました。日本の学会はここまで充実していないので(日本の学会にそれを求めているわけではありませんが)、これもよい意味で驚きました。また、スタッフの方々の対応も丁寧で、気持ちよく発表を行うことができました。

 

今回は、私たちが継続して研究を続けている潜在的シャイネスと顕在的シャイネスについて、新たな研究を行い、発表しました。ひとつは「潜在的シャイネスと種々の特性との関連」、もうひとつは「潜在的・顕在的シャイネスが社会的経験の影響を受けるか否かの検討」です。前者は澤海研究員が責任発表者となって発表しました。私が発表したのは、特性として考えられる潜在的シャイネスや顕在的シャイネスは、何らかの経験によって影響を受けるか否かという研究です。

特性 (personality) は、個人の中で比較的安定しており、容易には変化しないと考えられます。一方で、「自己」に大きな影響を与える出来事があった場合、変化しうる可能性はあります。たとえば、自分の能力に自信がある人が、第一志望の大学受験に合格した場合、その能力への自信は維持されるでしょう。しかし、もし不合格であった場合、能力への自信が低下する可能性があります。同様に考えれば、潜在的・顕在的シャイネスも、一定の期間の間に大きなイベントがあれば、影響を受けるかもしれません。本研究はこの可能性を検討するために実施されました。

 

本研究では、参加者 (41名の男女) の潜在的シャイネスと顕在的シャイネスを、それぞれImplicit Association Testと質問紙 (それぞれ相川・藤井, 2011; 相川, 1991) で測定した後、一か月後に再度、同様の尺度に回答してもらいました。2回目の回答時に、「この一か月間、普段より話し好きだった」、「この一か月間、人が自分に注目してくれなかった」、「この一か月間、自分の話を理解してもらえなかった」など、1回目の測定時からの間を振り返って評定してもらう尺度を併せて実施し、一か月間の社会的経験を測定しました。これらの「社会的経験」が、潜在的・顕在的シャイネスに対して影響するか否かを検討するために、潜在的・顕在的シャイネスの変化量(2回目測定時から1回目測定時の得点を引いた値) と、「社会的経験」との相関を検討しました。その結果、一か月間の社会的経験は、潜在的・顕在的シャイネスの変化量と有意な相関を示しませんでした (rs<.29, ps>.09)。このことは、潜在的・顕在的シャイネスは、少なくとも、自分で思い出しうるレベルでの社会的経験の影響は受けにくいことを示唆します。すなわち、意識的に評定される顕在的シャイネスと、非意識的な潜在的シャイネスはともに容易には変容しにくいと思われます。

 

ただし、この結果には制限もあります。その一つは、一か月間の社会的経験を、参加者自身に想起してもらったことです。意識的に想起した場合、記憶のアクセスのしやすさから、特定の (インパクトのある) 経験が多く思い出されやすいと考えます。それゆえに、過去の経験を過度に重みづけして思い出したり、逆方向へ修正されたりする可能性もあります。したがって、今回の結果は、上記のように「少なくとも、自分で思い出しうるレベルでの社会的経験の影響は受けにくいこと」を示唆するもので、限定的と言わざるを得ません。実際に参加者に密着すれば、参加者が経験した出来事の客観的な評定も可能ですが、倫理面・コスト面の制約が大きく、難しいと思われます。また、もっと大きな出来事でないと、特性としてのシャイネスを変えるほどには影響しない可能性もあります。本研究で収集した項目は、上記のように「この一か月間、普段より話し好きだった」、「この一か月間、人が自分に注目してくれなかった」といった内容で、仮にこの項目に強くあてはまる場合も、特性に影響するほど大きな出来事ではなかったのかもしれません。これらの点を踏まえ、今後は異なる方法や改善したパラダイムでアプローチできないかを検討していきたいと思います。

 

国際学会での発表は、研究成果を海外にアピールする貴重な場であると同時に、世界ではどのような研究が行われているか、海外の研究者はどういった考え方を持っているかを直接知ることができる貴重な機会です。実際に他国の研究者の講演から、動機づけ研究において、従来から研究の多かった「達成目標 (Achievement Goals)」の他に、近年は「社会的目標 (Social Goals)」に注目が集まっている様子に気付くことができました。また、会場のある国の雰囲気や食事に触れることで、文化の一部を垣間見ることができることも大きな魅力の一つだと思います。来年2月にはテキサスで開催される国際学会へ参加する予定ですが、こちらも今から楽しみです。

 

Are Explicit and Implicit Shyness Affected by Social Experiences? (顕在的シャイネスや潜在的シャイネスは社会的経験の影響を受けるのか?)(藤井勉・澤海崇文・相川充)

(CRET連携研究員 藤井 勉)


稲垣(藤井) 勉 -Tsutomu Inagaki (Fujii)-

CRET連携研究員 鹿児島大学 鹿児島大学学術研究院法文教育学域教育学系 講師

2012年から2016年まで韓国で教育にあたっていました。日本に戻ってからは、車であちこち出かけるのが趣味になりました。

研究テーマ:人の態度や特性(パーソナリティ)を、潜在的測定法などを使って多角的にとらえる研究を続けています。http://pyfpy037.wix.com/tsut0muf

研究発表論文

2017-07-31

教育テスト研究センター年報 第2号 2017年7月

相川 充

赤堀 侃司

加藤 由樹

加藤 尚吾

竹内 俊彦

舘 秀典

稲垣(藤井) 勉

澤海 崇文

北澤 武

若山 昇

宇宿 公紀

安西 弥生

外山 美樹

小林 輝美

湯 立

長峯 聖人

三和 秀平

酒井 智弘

林 楚悠然

黒住 嶺

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。

相川 充

-Atsushi Aikawa-
筑波大学 人間系
博士(心理学)

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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。

赤堀 侃司

-Kanji Akahori-
東京工業大学 名誉教授

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