CRETの研究発表論文 Dissertation

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日本教育心理学会第55回総会 発表報告
「個人のチームワーク能力測定尺度」の社会人への一般化可能性の検討
―因子構造の検討と異質な他者への共感性測定尺度との関連―

(発表者:杉森 伸吉・古屋 真・相川 充・土井 聡子)

 

1. 大概

 日本教育心理学会第55回総会(開催期間:2013年8月17日・18日・19日、開催場所:法政大学)において、「個人のチームワーク能力尺度」(2012)の因子構造から社会人への一般化可能性の検討を行った結果及び、同尺度と「異質な他者への共感性」との関連についてポスター発表を行いました。

 

2. 発表内容

〔問題と目的〕

 近年、経済協力開発機構(OECD)が提唱するキー・コンピテンシーや経済産業省の社会人基礎力などで「チームワーク能力」の重要性が強調されています。

 相川・高本・杉森・古屋(2012)は、集団の中で個人が発揮するチームワーク能力を測定する「個人のチームワーク能力測定尺度」を、大学生409名の回答を基に開発しました。

 本研究は、新たに社会人を対象とした回答データの因子分析を行い、大学生の回答データの分析結果と同様の因子構造が見られるか確認することで、(1)「個人のチームワーク能力測定尺度」(相川・高本・杉森・古屋, 2012)が社会人へ一般化できるか否かを検討しました。加えて、OECDが提唱するキー・コンピテンシーに「異質な集団で交流する」があります。その下位カテゴリに個人のチームワーク能力測定尺度の測定概念に該当する「協力し、チームの中で働く」があります。したがって、「個人のチームワーク能力測定尺度」が異質な集団において協働する能力も含んでいることが理想的です。本研究では、チームでチームワーク能力を発揮する上で不可欠であると考えられる「共感性」を取り上げ、自分とは価値観や考えが異なる他者への共感性を測定する(2)「異質な他者への共感性測定尺度」(米山, 2009)と「個人のチームワーク能力測定尺度」との関連を見ることで、個人のチームワーク能力と異質性との関連を検討しました。

 

〔方法〕

 分析の対象としたのは、「個人のチームワーク能力測定尺度」及び「異質な他者への共感性測定尺度」を用いて測定された既存データです。

 調査データは「個人のチームワーク能力測定尺度」に関しては、中小企業A・B社 正社員201名、大学生530名(既存)、「異質な他者への共感性測定尺度」については、中小企業A・B社 正社員187名を対象としたものです。調査期間は、A社は2010年9月中(異質な他者への共感性測定尺度については2010年11~12月)、B社は2011年8~10月です。

 

〔結果と考察〕

(1)「個人のチームワーク能力測定尺度」の社会人への一般化可能性の検討

 5つの下位尺度全体の因子分析結果について検討した結果、学生データ対象の分析結果(主因子法・プロマックス回転)は、「コミュニケーション」を除く4つの下位尺度がそれぞれ別因子にまとまりました。「コミュニケーション」に関しては、下位因子【主張】が「チーム志向」と同一、【解読】が単独因子としてまとまりました。一方、社会人データ対象では「チーム志向」と「バックアップ」がそれぞれ単独、「モニタリング」と「リーダーシップ」が同一因子としてまとまりました。「コミュニケーション」は、下位因子【記号】【解読】がそれぞれ単独因子となりました。

 相川他(2012)によると、コミュニケーション能力は他の4つの能力の共通基盤であることから、学生データの分析結果にみられるコミュニケーション能力の下位尺度構造は、概ね先行研究(相川他,2012)に沿った結果と言えます。また、社会人データにおいて「リーダーシップ」と「モニタリング」が同一因子となった結果には、対象企業の体制として、リーダーの役割が部下の仕事の進み具合をモニタリングするものであった可能性が考えられます。

 学生と社会人の下位因子ごとに分析を行い、結果を比較したところ、「リーダーシップ」を除き相川他(2012)が示す因子構造とほぼ同様の構造が見られました。

 2通りの因子分析結果を学生と社会人で比較した結果、下位尺度ごとでは各データに従来と同様の因子構造が見られた反面、下位尺度全体については異なる構造が見られたことから、同尺度の社会人への一般化は、多少課題が残るといえます。ただし、本研究では社会人データが201名と十分でないため、さらに多くの人数、企業から得たデータを用いて検討をする必要があります。

(2)「個人のチームワーク能力測定尺度」と「異質な他者への共感性測定尺度」の関連

 異質な他者への共感性測定尺度と個人のチームワーク能力測定尺度の5つの下位尺度(既存の下位尺度)との相関分析の結果、異質な他者への共感性は全ての下位尺度と有意な弱い正の相関がみられました。この結果より、異質なチームで発揮する個人のチームワーク能力は、個人のチームワーク能力測定尺度の測定概念と関連性がある可能性が示唆されました。

 

〔質疑応答〕

1) 「就活等でチームワーク能力を測定する際に、どうしても回答を意図的に操作してしまう回答者が出てくる。社会的望ましさを除いたチームワーク能力を測定できないものか」

→抽象度の高いCG動画を用いることで、回答者に測定対象を悟られないようチームワーク能力を測定するCGテストを開発中である旨を説明しました。

2) 「想定しているチームは人それぞれ違ってしまっているのではないか?特に学生を対象にした場合は、様々な集団が周りに存在していると思う。」

→「個人のチームワーク能力測定尺度」は特定の集団を指定しないことで、チーム一般において各個人が持つチームワーク能力の測定を試みています。

3) 「異質な他者とは具体的にどのような他者を指しているのか?」

→米山(2009)の示した定義上では、抱いている価値観や感情が自分とは異なっている他者を指しています。また、日本で国籍や宗教の違う他者と交流する機会は、海外に比べて稀であることが考えられますので、文化的背景が異なる他者に関しては、基本的にこの定義には含まれていません。

 

(CRET連携研究員 土井 聡子)


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