CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。
日本社会心理学会第55回大会 発表報告
―潜在的感情は動機で歪みうるのか?IPANATを用いた検討―
2014年7月26日・27日にかけて北海道札幌市の北海道大学にて開催された日本社会心理学会第55回大会に参加し、発表を行いました。
あいにく雨模様の日が続いたものの、関東の蒸し暑さとは縁遠く、涼しく過ごしやすい気候でした。
学会会場となった北海道大学を訪れるのは6年前に開催された日本心理学会第72回大会以来で、年月の早さに驚いています。スタッフの方々の対応はとても丁寧で、入念に準備されていたことが窺えました。社会心理学会は2000名近い会員数なので、準備も大変だったものと感じます。
今回、私は澤海研究員・中野研究員・相川理事と連名で「潜在的感情は動機で歪みうるのか?IPANATを用いた検討」というタイトルでポスター発表を行いました。これまで私たちの研究班は「潜在連合テスト (Implicit Association Test; IAT)」を用いてシャイネスや自尊心の測定を続けていましたが、今回は新たな試みとして、近年に発表された「Implicit Positive and Negative Affect Test (IPANAT)」を使用した研究を行い、その成果を公表しました。本研究では、「潜在的な感情は動機によって歪むことはない」と考えている私たちの仮説を支持する結果を得ました。
IPANATは、投影法に近い原理に基づいて、「潜在的な」感情を測定します。何の意味も持たないアルファベットの文字列を見て、「幸せな」、「憂うつな」といった印象をどの程度(その文字列に対して) 感じるかを通じて回答者の内的な感情を測定しようとするもので、2009年に公表されたばかりの測度です。本邦でも他の研究者の方が妥当性・信頼性の検討を行っており、ちょうどこのレポートが出る頃に公刊されているものと思います。
IPANATを用いた研究発表は初めての試みでしたが、途切れることなく多くの研究者の方にお越しいただき、有意義な議論を進めることができました。「潜在(implicitと訳すかindirectと訳すかは難しいですが・・・)」は社会心理学・パーソナリティ心理学など多様な領域で注目され続けているテーマだと感じます。そして、別解釈の可能性や課題もご指摘いただき、私自身、とても勉強になった発表でした。Implicitはその文字通り潜在的、間接的であるために、結果の解釈や理解が容易でない部分もあります。「潜在的測度は何を測っているのか?」という基本的な、しかし究極の問いに答えるために、研究を続けていきたいと思います。
大会開催時点では、来年の社会心理学会の会場は未定とのことですが、この学会は知り合いも多く、かつ関心の高い学会のひとつですので、どこで開催されようとも継続して参加したいと考えています。
さて、北海道に来た以上、「やはりジンギスカンや海の幸を食さねば」と意気込み、学会のセッション終了後には一生懸命に目標の達成に励みました。こちらも一定の成果を得たものと感じています。
最後に、論文の公刊前にも拘わらずIPANATの実験刺激を快く提供してくださった下田先生、大久保先生、小林先生、佐藤先生、北村先生に深くお礼申し上げます。
潜在的感情は動機で歪みうるのか?IPANATを用いた検討(藤井 勉・澤海 崇文・中野 友香子・相川 充)
(CRET連携研究員 藤井 勉)
コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。
相川 充
-Atsushi Aikawa-
筑波大学 人間系
博士(心理学)
コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。
赤堀 侃司
-Kanji Akahori-
東京工業大学 名誉教授