CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

The 16th Annual Meeting of the Society for Personality and Social Psychology (SPSP) 発表報告
―The effect of achievement goal orientation on task performance and post-task affect in online testing settings―

 2015年2月26日から28日にかけてLos Angels・Long Beachにて開催されたThe 16th Annual Meeting of the Society for Personality and Social Psychology (SPSP) に参加し、発表を行いました。
 Long Beachは西海岸沿いなので、日本よりもかなり暖かく、天気にも恵まれて過ごしやすい気候でした。会場となったLong Beach Convention & Entertainment Centerは海に近く、学会のセッションの合間に散策したり、クルーズ客船・クイーンメリー号を見たりと、西海岸の雰囲気を満喫してきました。クイーンメリー号の内部はとても広く、エンジンルームなどを見学しながら、こんなに大きな船が80年近く前から北大西洋を横断していたのかと思い驚きました。

 

 今回、私は澤海研究員・中野研究員・相川理事と連名で「The effect of achievement goal orientation on task performance and post-task affect in online testing settings(達成目標志向性がオンラインでの課題遂行におけるパフォーマンスや課題後の感情に与える影響)」というタイトルでポスター発表を行いました。

 

 何らかの課題に取り組むとき、個人の持つ目標は人それぞれです。自分の能力を高めることを目指す人もいるでしょうし、他の人には負けたくないとか、他の人より悪い成績をとることは避けたいと考えて課題に取り組む人もいます。達成目標志向性とは、こういった目標の持ちやすさを表します。種々の先行研究において、個人が持つ達成目標志向性は課題成績や課題後の感情に影響することが示されています。たとえば、他の人に負けたくないという目標(遂行接近目標といいます) や、他の人より悪い成績をとらないようにする目標(遂行回避目標といいます)を持って課題に取り組む人は、その課題がうまくできなかった場合、「自分の能力が低いために課題を達成できなった」と感じ、無力感を覚えたり、後続の課題への動機づけが低下したりします。一方、自分を磨くことを目指すマスタリー目標を持って課題に取り組む人は、もし失敗をしても「何か別の方法でトライする必要がある」と感じ、動機づけが低下しにくいことが知られています。これらはいわゆる「紙ベース」のテストが用いられた実験で示されてきたことですが、近年は紙ベースのテスト以外にも、Web上で実施するオンラインのテストも増えてきました。Webベースのテストは、前に回答した問題に戻ることができなかったり、1問あたりの時間制限が設けられている場合があったりと、紙ベースのテストと異なる部分もあります。本研究では、オンラインのテストにおける達成目標志向性の影響を検討しました。

 

 実験はすべてオンラインで行いました。最初に達成目標志向性などを測定したのち、参加者を2つのグループに分けて英語の選択問題(英検に準じたもの)を実施しました。各グループの違いは、課題の難易度です。難しい課題は英検1級レベルの問題が多い一方、易しい課題は英検2級レベルの問題を多く用いました。この課題に回答してもらった後、難易度の主観的評価、後悔や無能感といった感情、「もう一度課題を行うなら、何問くらい正解したいか」といった次回の課題への動機づけを測定しました。これらの諸変数の関連を分析したところ、概ね先行研究と一致して、マスタリー目標は次回の課題への動機づけにポジティブな影響を与えていた一方、遂行回避目標は課題後の無能感や後悔といったネガティブ感情の高さに結びついていました。特に注目すべきは、遂行接近目標の影響です。易しい課題を実施したグループでは、この目標はテストの成績の高さと関連していました。つまり、遂行接近目標が高いほど多くの問題に正解できていた一方、難しい課題を実施したグループでは全く逆の結果、つまり遂行接近目標が高いほど正解できた問題数が少なかったのです。この点は興味深く、いくつかの解釈が可能と思われます。

 

 ひとつは、遂行接近目標の性質からの解釈です。この目標は「失敗への恐れ(失敗したらどうしようという気持ち)」と「達成欲求(ものごとをうまくやり遂げたい)」という2つの側面を有している目標です。この目標を持っている人は、直面した課題が易しい場合には「失敗への恐れ」は悪影響を与えず、「達成欲求」のとおりによい課題遂行が導かれる一方、課題が難しい場合には「失敗への恐れ」が悪さをして「達成欲求」よりも強くはたらき、課題の成績を低下させるのかもしれません。他には、テスト不安の影響も考えられます。遂行接近目標や遂行回避目標が高い人は、「課題でよい成績をとれるかどうか」に注目するために、テストへの不安も高いことが予想されます。課題が難しい場合、テスト不安が大きく影響して課題遂行に悪影響を与えたのかもしれません。

 

 この発表を聞きにいらしてくださった方々からは、分析の手法や使用した尺度、別解釈の可能性など多くの質問や意見をいただくことができ、有意義な発表になりました。

 

 国際学会でいつも感じるのは、よい意味での「固くない」雰囲気です。日本では参加者も会場のスタッフも基本的にスーツ、もしくはそれに近い服装ですが、国際学会ではTシャツにジーンズだったりと、普段着のような格好をしている方も多いです。かといって、それが失礼なわけでもなく、むしろ肩肘をはらずに議論できる雰囲気を作り出しているように思います。日本の学会スタイルに馴染んでいる私にとってはとてもハイレベルで、いまだにジャケットは脱げずにいます。次回はSan Diegoで開催されるそうですので、そこではもう少しリラックスした服装で臨み、フランクに議論ができればと思っています。

 

The effect of achievement goal orientation on task performance and post-task affect
in online testing settings
(藤井 勉・澤海 崇文・相川 充・中野 友香子)

 

(CRET連携研究員 藤井 勉)

 


稲垣(藤井) 勉 -Tsutomu Inagaki (Fujii)-

CRET連携研究員 鹿児島大学 鹿児島大学学術研究院法文教育学域教育学系 講師

2012年から2016年まで韓国で教育にあたっていました。日本に戻ってからは、車であちこち出かけるのが趣味になりました。

研究テーマ:人の態度や特性(パーソナリティ)を、潜在的測定法などを使って多角的にとらえる研究を続けています。http://pyfpy037.wix.com/tsut0muf

研究発表論文

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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