CRETの研究発表論文 Dissertation

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日本心理学会第79回大会発表報告
―自己愛に及ぼす顕在的・潜在的自尊心の不一致の影響:不一致の大きさと方向に着目して―

2015年9月22日から24日にかけて名古屋国際会議場にて開催された日本心理学会第79回大会に参加し、澤海研究員・相川理事と連名で発表を行いました。まだ残暑が厳しかったものの、会場内は空調も行き届いており、案内も分かりやすかったので、気持ちよく参加することができました。
 
「自尊心」とは、自分自身に対する肯定的な感情であり、自分を価値ある存在として捉える感覚のことをさします。自尊心はこれまで、質問紙などの自己報告を用いて測定されてきました。しかし、近年は間接的な手法を用いて測定する試みも広がっています。ここでは前者を顕在的(explicit)自尊心と呼び、後者を潜在的(implicit)自尊心と呼ぶことにします。従来の研究では、顕在的自尊心は精神的健康の指標と関連することが繰り返し示されており、たとえば、顕在的自尊心が高いほど抑うつ傾向が低い、孤独感が低い、幸福感が高いといったポジティブな結果が報告されています。
 
ですが、2000年を過ぎた頃から、「顕在的自尊心が高いだけでは(あるいは、顕在的自尊心を高めるだけでは)不十分である」という研究が目立ってきました。顕在的自尊心が高くても、潜在的自尊心が低い場合、どちらも高い場合と比べて抑うつ傾向が高いとか、内集団ひいきを強く行うといった研究が報告されています。どうやら、精神的健康には顕在的自尊心と潜在的自尊心の組み合わせの影響があるようです。
 
そして、さらに近年の研究では、個人の中で顕在的自尊心と潜在的自尊心のどちらが高いのか(顕在・潜在の優位性)、そして、両者はどれくらいズレているのか(顕在・潜在の不一致の程度)に着目したものがみられます。これらの研究では、顕在的自尊心よりも潜在的自尊心の方が高い場合、かつ両者の不一致が大きいほど、抑うつ傾向や孤独感、自殺念慮が高いといった不適応的な状態になることが示されています。ただし日本における研究は極めて少ないことから、本研究は、ネガティブなパーソナリティとして「自己愛」を取り上げて、この現象が起こるか否かを検討しました。
 
先行研究に沿って、潜在的自尊心の方が顕在的自尊心に比して高く、かつ両者のズレが大きいほど、自己愛が高いと仮説を立てて分析したところ、予想とは逆の結果が現れました。この状態に該当する参加者の自己愛はむしろ「低かった」のです。この点は解釈が難しいですが、今回測定した自己愛の尺度は「自分に対する(過度な)ポジティブさ」を測定する項目で構成されています。つまり、高すぎると問題ですが、ある程度の高さはあってよいもの、と考えることもできます。そのように考えるならば、今回の結果は先行研究とは矛盾しないということもできます。ただし、自己愛には過度なポジティブさだけでなく、対人恐怖症的な側面もあるとする立場もあることから、こうした側面も測定し、改めて検討したいと考えています。
 
近年は、私たちの研究グループの活動に注目してくださる方もいらっしゃるようで、発表時には多くの方々にお越しいただけました。たとえば「自己愛に性差が予想されるため、男女別に分けて分析してはどうか」、「ソーシャルスキルを潜在的手法で測ることはできないか」、「将来的に潜在的自尊心を上げる介入方法を検討するならば、使えそうな手法がある」など、どれも有益なコメントを賜りました。ぜひ今後の研究に生かしたいと考えています。
 
日本心理学会は私が2007年に初めて入会した学会で、その学会名どおり、日本の中でも大きな心理学会の一つです。大きな学会だけあって、多種多様な発表はもちろん、著名な研究者の招待講演なども盛りだくさんで、いつも楽しみにしています。来年は横浜で、国際心理学会と共同開催ですので、ますますエキサイティングな大会になると思います。今から待ち遠しい限りです。
 

自己愛に及ぼす顕在的・潜在的自尊心の不一致の影響:不一致の大きさと方向に着目して
(藤井 勉・澤海 崇文・相川 充)
 
(CRET連携研究員 藤井 勉)

稲垣(藤井) 勉 -Tsutomu Inagaki (Fujii)-

CRET連携研究員 鹿児島大学 鹿児島大学学術研究院法文教育学域教育学系 講師

2012年から2016年まで韓国で教育にあたっていました。日本に戻ってからは、車であちこち出かけるのが趣味になりました。

研究テーマ:人の態度や特性(パーソナリティ)を、潜在的測定法などを使って多角的にとらえる研究を続けています。http://pyfpy037.wix.com/tsut0muf

研究発表論文

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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相川 充

-Atsushi Aikawa-
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