CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

教育システム情報学会 2015年度 第40回全国大会研究発表報告
学生にクリティカルシンキングを促すための授業実践(2)
-ディベートに頼らず、疑問を投げかける効果について-

2015年9月1日に徳島大学で開催された教育システム情報学会 2015年度 第40回全国大会に参加して、「学生にクリティカルシンキングを促すための授業実践(2)」と題して、基盤設計研究部門で行った実験結果を発表しました。
 
前年度にも報告した研究(若山他 2014)の継続です。現代社会を生きていくには、論理的に考えて、問題発見・解決をすることが必要であり、大学において論理的に考える方法、クリティカルシンキングを教えています。ところが、何も教えなくても、学生は自分で考えてクリティカルシンキングに対する志向性を深めるこができます。本研究の目的は、教員が新たな知識を教えなくても、ディベートをしなくても、疑問を何度も投げかけて、学生に思考を促すことさえすれば、問題発見・解決につながることを、明らかにすることです(図1)。今回の設問は難しかったため、問題発見・解決に至った学生数の伸びは多くはありませんが、繰り返し疑問を投げかけることによって、問題発見・解決に向かうことは統計的に有意に上昇しました。以下にその内容について述べます。
 

 
 
調査は、前回同様に大学生60名(1~4年生)を対象としました。設問はスクリーンに提示され、学生はスマートフォンでWebに解答しました。学生の解答を3点満点で点数化し変化を分析しました。なお、以下は具体的な設問です。
 
「3.11によって、電気が足りなくなったので、節電が必要になった。だから、週末のオープンキャンパスでも、節電を実施した。」この理由と結論の関係は適切でしょうか。
Q1:あなたの意見を述べてください。
Q2:疑問点や問題点があれば、書いてください。
*「んーーっ、チョット待った。それって、ホント?なぜ、本当?」と、3回唱和(参加者番号1~30の30名のみ)。
Q3:設問の理由と結論の関係は適切でしょうか。疑問点や問題点があれば、書いてください。
*ヒントを提示する (参加者番号奇数番30名のみ) 工場の操業をシフトするのはなぜ?
なぜ、そのようなことが起きるのか?
Q4:設問の理由と結論の関係は適切でしょうか。疑問点や問題点があれば、書いてください。
Q5:最後に確認 (参加者番号奇数番30名のみ)
- 電気の大量貯蔵が不可能な事を知っていましたか?
- 節電が重要なのは、ピーク時であることを、知っていましたか?
なお、唱和・ヒントの実験の時間帯には、各々の統制群はその間は何も行わず、設問のみに解答しました。
 
実験の結果、学生が疑問点や問題点に気づくには、何度も疑問を投げかけることが有効であることが統計的に示されました。しかし、8割以上の学生は最後まで疑問点や問題点に気づいていなかったようです(図2、表1)。
 

 

 

 電気が貯められないことは中学校で学びます。しかし、このことを知っていたのは45%でした。さらにこのことを工場操業時間シフトの理解に活用できた人は、4割だけでした。知識として知っていても現実の世界に活用できない学生が21%になりました。この点は昨年の発表と酷似しており、知識を持っていても使えないのは本当にもったいない話です。知識は持っていても、活用できない場合が多いのです。知識の活用には、3つの段階、理解⇒適用⇒活用があり、それぞれ「分かった」⇒「解けた」⇒「使えた」と階段を昇る必要があります。
 
この実験でも昨年度発表した実験でも、知識は何も与えていません。問題の難易度によって理解度の向上の程度は異なりますが、知識が何も与えられなくても、学生が自ら深く考えれば、問題の発見・解決に向かって理解度が向上することが示されました。したがって、教員の仕事は単に知識を与えることだけでなく、学生に考えてもらうように促すことも重要になります。
 
理解の深まるには、繰り返し考えることだけでよいのか、あるいは疑問を投げかけられることが必要なのかを、今後明らかにする必要があります。さらに、今後の課題は、学生が理解を深めるには、どのような方法がより効果的であるかを探究することです。
 
最後に、本研究は共同研究として他の先生方から多くのご助言・ご協力を頂きました。ここにお礼申し上げます。
 
<参考文献>
若山昇他 (2014) クリティカルシンキングによる学生の理解度向上 、日本教育工学会第 30 回全国大会講演論文集 pp.931~932
若山昇 (2009) 大学におけるクリティカルシンキング演習授業の効果、大学教育学会誌、31(1) pp.145~153
 
(CRET連携研究員 若山 昇)

若山 昇 -Noboru Wakayama-

CRET連携研究員、帝京大学 法学部 准教授

趣味:温泉、水泳、旅行、散歩

「それってホント? なぜ、本当?」と、クリティカルシンキングしています。
研究テーマはクリティカルシンキング。
紹介Webサイト:http://www.e-campus.gr.jp/staffinfo/public/staff/detail/125/20

研究発表論文

2017-07-31

教育テスト研究センター年報 第2号 2017年7月

相川 充

赤堀 侃司

加藤 由樹

加藤 尚吾

竹内 俊彦

舘 秀典

稲垣(藤井) 勉

澤海 崇文

北澤 武

若山 昇

宇宿 公紀

安西 弥生

外山 美樹

小林 輝美

湯 立

長峯 聖人

三和 秀平

酒井 智弘

林 楚悠然

黒住 嶺

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。

相川 充

-Atsushi Aikawa-
筑波大学 人間系
博士(心理学)

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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。

赤堀 侃司

-Kanji Akahori-
東京工業大学 名誉教授

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