CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

日本グループ・ダイナミックス学会第62回大会発表報告
―潜在的・顕在的シャイネスは変容するか?:評価条件づけによる検討―

2015年10月11日から12日にかけて奈良大学にて開催された日本グループ・ダイナミックス学会第62回大会に参加し、澤海研究員・相川理事・中野友香子さん(2014年度CRET連携研究員)と連名で発表を行いました。会場となった奈良大学は思いのほか駅から遠く、歩ける距離のようですが、私はバスを利用しました。バスを降りて「着いた!」と思ったのも束の間、「坂道を登ってください」という案内があり、坂の上を目指して登りました。こうしたことが記憶に残るあたり、「年齢」を感じずにはいられません。

 

さて今回は、私たちのグループが数年にわたり研究を続けている「潜在的シャイネス」の変容可能性についての研究成果を発表しました。近年は人の心理的特性を測定するために、意識的な回答に基づく自己報告(アンケート)ではなく、潜在連合テストと呼ばれる、意識の影響を受けにくい測定法を用いる研究が増えてきました。ここでは、両者をそれぞれ顕在的測定法、潜在的測定法と呼ぶことにして、前者で測定したシャイネスを顕在的シャイネス、後者で測定したシャイネスを潜在的シャイネスと述べることにします。私たちはこれまで、潜在的なシャイネスが高いと、人前で緊張しやすいとか、赤面しやすくなるといった研究結果を得ています。

 

このように、対人場面において身体的な症状を引き起こす可能性のある潜在的シャイネスを下げることができれば、介入プログラムの作成といった応用研究に繋がると考え、今回の実験を行いました。具体的には、「内気な」「遠慮がちな」などの「シャイ」に関係する言葉を自分から遠ざけ、逆に「遠慮のない」「大胆な」などの「社交的」に関する言葉は自分に近づけるという課題を、参加者にコンピュータを用いて行ってもらいました。その課題の前後で、自己報告や潜在連合テストを用いて顕在的・潜在的シャイネスを測定し、この得点に変化が見られるかどうかを検討しました。先行研究では、こうした手法を用いた場合、自分に近づける動作を行った態度対象への潜在的な好みだけが増加していました(顕在的な好みは変わりませんでした)。つまり、今回の実験では、「シャイ」に関係する言葉を遠ざけ、「社交的」に関係する言葉を近づけることで、潜在的なシャイネスが減少すると予想しました。

 

また、私たちのこれまでの研究で、「シャイネス」というものをどのように捉えるかは、個人差があることも分かっています。欧米では、シャイであることは印象を悪くするので変えるべきだという感覚があるようですが、日本では必ずしもそうとも言えないように思います。シャイネスを「変えることができる」と考えている人ほど、そうでない人に比べて、今回の課題の前後で変化が起こりやすいのではないかと考えました。

 

実験の結果、先行研究とは異なる結果が現れました。潜在的なシャイネスは課題の前後で変化しなかった一方、顕在的なシャイネスは有意に低下していたのです。可能な解釈としては、潜在的なシャイネスを変化させるための課題の操作が十分でなかったことや、そもそも潜在的なシャイネスを変化させるのは難しいというものです。また、個人がシャイネスの変わりやすさをどのように捉えているかは、この結果に影響していませんでした。今回、シャイネスの変わりやすさの捉え方を測定した尺度は、私たちが先行研究の尺度を独自に翻訳したものであることもあり、尺度が妥当であるかという点も含めて精査が必要だと感じました。

 

発表は幸い盛況で、「そもそも、日本でもシャイネスは変えた方がよいのか」、「潜在的なシャイネスを変えるアプローチではなく、直接、対人緊張などの行動面を変えた方が早いのでは?」、「一口にシャイネスと言っても、個人がイメージするものは違うように感じるので、シャイネスの捉え方を測定する方法は再検討した方がよいのではないか」など、多様なご意見をいただきました。このように、学会で客観的なご意見をいただくことは、新たな視点から研究を深化させることに繋がりますので、たいへんありがたいことだと感じました。

 

グルダイと略されるグループ・ダイナミックス学会は、規模こそ小さいものの、私たちの関心に近い研究発表が凝縮されており、毎年心待ちにしている学会のひとつです。次回の九州大学での大会も楽しみにしています。

 

潜在的・顕在的シャイネスは変容するか?:評価条件づけによる検討

(藤井 勉・澤海 崇文・相川 充・中野 友香子)

 

(CRET連携研究員 藤井 勉)


稲垣(藤井) 勉 -Tsutomu Inagaki (Fujii)-

CRET連携研究員 鹿児島大学 鹿児島大学学術研究院法文教育学域教育学系 講師

2012年から2016年まで韓国で教育にあたっていました。日本に戻ってからは、車であちこち出かけるのが趣味になりました。

研究テーマ:人の態度や特性(パーソナリティ)を、潜在的測定法などを使って多角的にとらえる研究を続けています。http://pyfpy037.wix.com/tsut0muf

研究発表論文

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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