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CRETから、最新の教育・テストに関する学会レポートをお届けします。

日本教育工学会第25回全国大会参加レポート

  2009年9月19日~21日にかけて、東京大学で行われた日本教育工学会第25回全国大会 に参加しました。

  「教育工学」は人文社会系と理工系、ならびに人間に関する学問分野を融合した学際的な学問で、今年も全国大会には、教育や工学系の研究者をはじめとした大学関係者、学校関係者、教育系企業など様々な参加者が集まりました。
  全国大会は、シンポジウム、課題研究、一般研究、ワークショップ、そしてInternational Sessionで構成されています。発表件数は400を超え、非常に多くのさまざまな研究内容が発表されました。

  安田講堂での初日のシンポジウムでは、「学習指導要領のスタートに向けて、「教育の情報化」のために教育工学は何をすべきか」 というタイトルで、日本教育工学会の会長である永野 和男教授(聖心女子大学)をはじめとした先生方が登壇されました。
  情報教育は学校でコンピュータを使用するということではなく、情報教育の元々の意義である「情報を判断する・活用する」といった目的で教科の中に入っていくべきで、ICTを活用した効果的な指導方法のスタンダードの確立が必要であることなどが議論されました。
  また、ICTの環境整備に必要な要件やICTの活用を道具論から見直すといった議論も繰り広げられました。日本ではICTの使用については、はじめにそのネガティブな面や使用することの効果という点が言われることが多いと思いますが、道具のように使いながら使いやすいものに変えていくという考え方はICTの使用を考えていく上で改めて非常に馴染みやすいと思いました。

  2日目のシンポジウムも同じく安田講堂で「変革をささえる教育工学:サスティナビリティとスケーラビリティ」というタイトルで行われました。
  教育工学などの研究成果が現場に根差し、継続され、普及するにはどうすれば良いかという内容で、初等中等教育、高等教育の事例を交えながら議論がされました。
  シンポジウムをインタラクティブにするために、学会のシンポジウムでは珍しいいくつかの工夫がされていました。座席が隣の人とシンポジウムの内容について、自己紹介後にディスカッションをしたり、携帯電話から事務局のアドレスに質問を送ったりするという試みです。何人かの方とシンポジウムに関する内容や参加した理由について話すことができ、一方通行で終わらない非常に良い試みだと思いました。

  いくつか聴いた研究発表の中から、印象に残った内容をご紹介します。
  諸外国のICT活用に関して報告したものに、韓国のデジタル教科書に関する報告*1 やシンガポールのICT活用の事例に関する報告*2 がありました。シンガポールでは、学習者個人の継続的な成績データが蓄積され、その結果を用いて教育改善が実施されている点など個人の経年変化に重点が置かれた成績データの活用方法は、日本においても参考に出来る部分は多いと思いました。

  また新しいメディアの教育分野での使用可能性についての発表もありました。
電子書籍の可能性(紙媒体(A4)、ノートPC(15インチモニタ )、携帯型電子書籍(ニンテンドーDS)における読解で比較)を被験者実験による読解テストの結果とアンケート調査結果をもとに考察した研究*3 やeラーニングにおける入力デバイスにキーボード、ペンタブレット、タブレットPC で、アイマークレコーダで学習者の注視点を測定、記憶保持・内容理解テスト、アンケート調査およびメモ書きで評価した研究*4 などです。
新しいメディアでの使用可能性についての発表をいくつか聴き、対象の学齢が下がるにつれて、メディアの操作に慣れるのが早いという点を改めて感じました。

「生き物系」博物館におけるICTを活用した学習環境デザイン*5 として、行動展示からだけでは得られない情報を利用者へ提供する展示手法の提案についての発表もありました。
触れたり、においがしたりといった本来の生き物の特徴を消さないような学習が博物館という場を使って枠組みが作られ、新しい教育の場として広まると良いと思いました。

教育工学研究のあり方に関する発表*6 もいくつかありました。教育工学研究における量的研究の問題は、扱いやすい変数だけを観察対象にし、測定可能な変数だけで結論を導き出そうとした点に問題があるといった指摘がされていました。教育工学の今後の方向性について工学概念の拡張をした背景から論じられた後、教育工学は教育者や実践者に役立つような研究成果の出し方を意識すべきであり、心理学研究法などのように教育工学研究法がなくてはならないという著者の主張が特に印象に残りました。今後研究内容を判断したり、参考にしたりする上で1つの指標としたい発表内容でした。

その他にはeポートフォリオや協調学習支援システムに関する研究も多数見られました。

  発表数が多いこともあり、ひとつひとつの発表時間が短く、論点が不明な発表も散見されたことは残念でしたが、教育工学研究にたくさん触れた数日間でした。
次回の第26回大会は、金城大学(名古屋市)において2010年9月18日~20日の日程で行われる予定です。

*1 曹 圭福他, ”デジタル教科書活用による問題解決力の変化の分析”
*2 黒田 恭史他, ”個々人の学習を下支えする隠れたICTの活用–シンガポールの教育制度を事例として–”
*3 菅谷 克行, ”教育における電子書籍の可能性”
*4 安藤 雅洋他, ”タブレットPCを用いたeラーニングの効果分析”
*5 大橋 裕太郎他, ”「生き物系」博物館におけるICTを活用した学習環境デザイン”
*6 松田 稔樹, ”教育工学研究のあり方に関する一考察”

(CRET協力研究員 木谷 紀子)

その他研究員 -Other Researcher-

学会レポート

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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相川 充

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筑波大学 人間系
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赤堀 侃司

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東京工業大学 名誉教授

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