CRETの学会レポート Colomn

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統計教育シンポジウム参加レポート

  2009年5月16日、「新学習指導要領における統計教育必修化を考える~高校数学Ⅰ『データの分析』をどう教えるのか~」というテーマのシンポジウム に参加しました。主催は統計数理研究所・統計関連学会連合*1 統計教育推進委員会*2 です。プログラムは3つの講演と指定討論で構成され、統計、数学、数学教育、医学、学校教諭、大学職員など、多岐にわたる人が集まり、議論が白熱しました。以下、概要をご報告します。

 講演1では、藤原 志保氏(文部科学省初等中等教育局 教育課程課教育課程企画室室長補佐)より、学習指導要領の変遷と特色、昭和33年改訂から数えて6回目にあたる、平成20年改訂(今回)の特徴が大変わかりやすく説明されました。初等中等教育局が小学校から高校まで全教育課程を担当するようになってから初めての改訂だそうで、その気概が伝わってきました。

 教育基本法第1章第2条が示す教育の目標が引用され、知・徳・体の全てをバランスよく育てることの重要性や、知識・技能を活用し、課題解決のために思考し、主体的に学習する態度が大切であることが力説されました。

 平成21年度から先行実施されている小学校と中学校の理数補助教材を例に、言語活動を充実させる具体的な指導方法も示されました。小学5年生の算数では、台形の面積を多様な方法で求め、自分の考えと他人の考えの共通点や相違点を話し合い、中学1年生の数学「資料の活用」では、データを収集し、自分なりの方法で表やグラフにまとめ、まとめた内容をクラスで互いに議論します。

 高校数学Ⅰは、標準単位数3の必履修科目となり、「数と式」、「図形と計量」、「二次関数」、「データの分析」の4領域が学習内容です。2単位まで減らしてもいいのなら、新設の「データの分析」が割愛される恐れはないか、との高校教諭からの質問に対し、科目の目的が損なわれない範囲での単位数減なので、学習領域の割愛は認められない旨、藤原氏より回答がありました。

 理数に関して、高校入試は平成24年度入試から新課程と旧課程が混在して出題され、平成27年度センター入試(27年1月実施)は新課程から出題されることになります。現役の中学・高校の数学教諭自身が統計の指導経験が浅いこともあり、今後、その指導方法やアセスメント開発が重要になると考えられます。

 講演2では、 Robert Gould 氏(米国UCLA統計教育センター長、同大学統計学部副学部長)より、米国における統計教育の取り組みについて話がありました。日本同様、米国でも、「統計は数学科目で教えるべきか否か」の論争が続いてきました。コンピュータ技術の発達でデータ操作が簡易になってきた昨今、結局、統計教育は、データの科学(a science of data)であり、数学の適用(an application of mathematics)ではない、ということに落ち着いたのだそうです。

  Gould氏は、平均値など統計量の計算(calculate)ではなく、それらの解釈や説明(explain)ができる力を身につけさせるために、UCLAの統計教育カリキュラムでも、データ結果を比べて言葉と数値で説明させる活動を奨励しています。例えば、データの外れ値(outlier)は、対象データや目的によって変わるもので、外れ値を決める絶対的な基準はありません。正誤の基準が明確な数学に比べて、あいまいさや不明確さがあるのが統計です。データに応じて、外れ値にすべきかどうか判断できる力が求められるのです。数学教諭にとって、このようなあいまいな概念の指導はあまり慣れていませんから、例えばINSPIRE*3  というプログラムが指導者を支援しています。

 一方、AP*4  Statistics の受検者が12万人にのぼり、これは10年前の15倍に相当します。統計は、それだけニーズの高い領域なのです。統計教育をより充実させるため、アメリカ統計学会(American Statistical Association)は、統計教育の指導とアセスメントガイドライン(GAISE*5) や学部の統計教育発展のためのコンソーシアム(CAUSE*6) などを立ち上げました。CAUSEでは、統計教材リソースをウェブサイトで提供 しています。またUCLAは、電子ジャーナルTISE*7 やオンラインツールSOCR*8 で、統計教育改革に貢献しています。統計教育改革運動の結果、大学生の半数が初等統計を学ぶようになり、ミネソタ大学で統計の博士課程*9 が設立されました。現在唯一の博士課程ですが、他大学も設立を検討しています。

 若い学生はデータに囲まれて育ってきたので、コンピュータでデータを操作することには全く抵抗感がありません。そのような学生に対して、教師は正しいデータの扱い方について指導する必要がある、と講演を結んでいました。

 講演3は、楠岡 成雄教授(日本学術会議数理科学委員会委員長、東京大学大学院数理科学研究科教授)による日本の数学教育のゴールに関する示唆に富んだ話でした。日本の高校数学のゴール、すなわち「微積分と関数」の習得、を念頭に学習指導要領改訂の変遷を見るとその一貫性が見えます。アメリカでは微分積分を教えていないので、日本がアメリカ型に移行するには大英断が必要だ、との主張がありました。

 シンポジウムでは、文部科学省の方針、アメリカの統計教育の先行事例、日本の数学教育の目的という3つの観点を得ました。さらに、グローバル化やテクノロジーが速いスピードで変化する時代に生きる人に必要な能力は何なのかを考え、将来を担う子どもたちにとって最適な教育が実施されるようCRETが少しでも貢献できれば、と思いました。

*1 統計学会連合は、統計学の発展・普及を目的として統計関連学会が連合して各種共同事業を推進するための団体。現在は 応用統計学会、日本計算機統計学会、日本計量生物学会、日本行動計量学会、日本統計学会、日本分類学会の6学会が参加している。
*2 統計教育推進委員会とは、広い意味での統計教育を推進するために統計関連学会連合で発足した委員会。委員長は岩崎 学先生(成蹊大学)。
*3 INsight into Statistical Practice、 Instruction and REasoning (INSPIRE)とは、AP Statisticsを指導する高校教師向けの統計学習コース。AP Statistics のカリキュラムに準拠している。終了すると学習者に大学の単位が付与される。
*4 AP(Advanced Placement)は、米国カレッジボードが提供するコースプログラムで、高校生(16-18歳)が大学初学年の科目を学ぶ。34科目のコースと試験があり、AP Statisticsはその中の統計科目。
*5 Guidelines for Assessment in Instruction and Statistics Education (GAISE) 
*6 Consortium for Advancement of Undergraduate Statistics Education(CAUSE)
*7 Technology Innovations in Statistics Education (TISE) 
*8 Statistics Online Computational Resource (SOCR)
*9 University of Minnesota, School of Statistics, PhD.
      http://www.stat.umn.edu/Programs/PhD.html

(CRET研究員 星 千枝)

星 千枝 -Chie Hoshi-

CRET研究員

趣味: ランニング、テニス、温泉、グルメ

研究テーマ: 教育とテクノロジーを組み合わせて(EdTech)、新しい学びを創出すること。「教科×プログラミング」の指導内容と評価手法を開発し、現場での実践に取り組んでいます。

学会レポート

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。

相川 充

-Atsushi Aikawa-
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