CRETのコラム/レポート Activities

CRETから、最新の教育・テストに関する世界の動向などをお届けします。

近い将来、入学試験はなくなる?

相川 充

元・CRET理事/元・筑波大学教授/東京学芸大学名誉教授

 

 「教育評価についての展望,可能性について何か書くように」と,理事長から言っていただきました。「教育評価」には,子ども達についての成績評価や,子ども達による授業評価などが含まれますが,私は「教育評価」と聞くと入学試験を思い浮かべてしまいます。私が全ての入学試験に失敗しているからかも知れません。高校入試,大学入試,大学院入試,全て第1志望は不合格。「入試当日に,極度に緊張してしまい,普段の私の実力,本来の能力を発揮できなかったからだ」と私は自分にも親にも言い訳をしました。これは言い訳に過ぎませんが,一理あります。極度の緊張は,脳の活動部位を限定し,物の見方や考え方を狭め,思考力,柔軟性を低下させ,その結果,記憶していた事項を思い出せなくなったり,数学の応用問題が解けなくなったりしますから。

 

私は,教育評価を「測定」の観点から研究対象にするようになったあと,私の不合格体験から,入学試験で測定している受験生の能力は,受験生の普段の実力なのか,それとも,入試当日に発揮しうる能力なのか,どちらなのだろうかと考えるようになりました。入試の実施者側が,入試当日の特殊な状況下であっても発揮しうる受験生の能力の程度を測定したいのであれば,現在の入試の実施方法は悪くない方法だと言えるかもしれません。しかし,入試の実施者側が,受験生の普段の実力を測定したいと思っているのであれば,現在の入試の実施方法は妥当な方法とは言えません。一定の日時に,受験生にとって不慣れな場所に,互いがライバルである者達を一堂に集めて,同一の試験問題を解かせて,その得点の高得点の者から順番に並べる。そして,一定の得点以上の者を合格者,それ以下の者を不合格者とする実施方法では,入試当日の受験生の心と身体の状態をも含めた,実力の発揮〝状態〟を測定していることになるからです。入試当日の実力の発揮〝状態〟の測定と,普段の実力程度の測定とは,必ずしもイコールではありません。

 

このような理屈は,入試のあり方について,これまで何回も議論を重ねてきた有識者達は,百も承知の上のことだと思いますが,受験者全員に,平等な試験環境を与えるために,一定の日時に,一定の場所に受験者達を集合させるという物理的制約を課した上で,同一の試験問題を解かせる方法を実施してきたのでしょう。

 

ところが,物理的制約が解かれるかも知れない状況が起こりつつあります。教育現場での新型コロナ感染拡大の防止対策の1つとして,教室の中の子ども達が,一人一台のパソコンやタブレットを持って授業を受ける光景が,加速度的に,当たり前の風景になりつつあります。文部科学省が提唱する「GIGA (Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」の達成は,早まるのではないでしょうか。子ども達一人一台の端末と,高速大容量の通信ネットワークが繋がれば、子ども達一人一人の実力の発揮の程度の情報を,日々,蓄積することができるようになります。たとえば中学生ならば,在学中の3年間,毎日の授業での応答状況も確認テストの得点も,体育や美術や音楽などの実技教育による心や身体の変化も,各生徒が持つさまざまな側面の多様な情報を,大量に蓄積することができるようになります。

 

子ども達一人一人の日々の情報の集積である,この〝ビッグデータ〟を解析して,子ども達一人一人の普段の実力の程度を,共通の物差しで測定するアルゴリズムを開発できないでしょうか。子ども達が通っている学校の違い(地域差,公立か私立かなどの違い)を変数として組み込んで,各子どもの普段の実力の程度を,同一の物差しの上で比較することができるようになれば,子ども達の進学校を決めるために,一定の日時に一定の場所に受験生達を集合させて,同一の試験問題を解かせるという現行の入試の実施方法を採用しなくて済むようになります。子ども達にとっては,高校や大学に進学するために,入学試験という特殊な状況下での特別なテストを受ける必要がなくなり,在学期間の3年間の普段の実力全体を評価されて,その評価結果によって進学校を決めることができるようになります。こうなれば,入試当日の心や身体の状態のせいで普段の実力が発揮できない不運な受験生は存在しなくなります。あるいは昔の私のように,試験当日の過度の緊張で実力が発揮できなかったと言い訳をする受験生は存在しなくなります。

 

コロナ禍で変わってしまった教育現場を目の当たりにして,「近い将来,教育界から入学試験というものが消えてなくなるのではないか」と,確たる根拠もないまま私は心に思い描いています。

相川 充 -Atsushi Aikawa-

元CRET理事/元筑波大学 教授/東京学芸大学 名誉教授

コラム/レポート

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2017-10-25

AI時代の教育

新井 健一

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。







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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。







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