CRETのコラム/レポート Activities

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GIGAスクール構想と「個別最適な学び」「協働的な学び」と評価

新井 健一
特定非営利活動法人教育テスト研究センター 理事長

 

 

GIGAスクール構想によって1人1台端末が整備されたことに伴い、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の充実が期待されている。中央教育審議会の教育課程部会が令和3年1月の審議のまとめで、「個別最適な学び」と「協働的な学び」について公表し、その後令和3年3月には、文部科学省が「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実に関する参考資料を公表している。これらの公表時期からの準備期間を考えると、教育現場での本格的な取り組みは今年度からになるのではないだろうか。

 

これらの資料によると「個別最適な学び」とは、これまでの学習指導要領で述べられていた「個に応じた指導」を、学習者の視点から整理した概念のことであるとして、「指導の個別化」と「学習の個性化」に分けて説明している。「指導の個別化」とは、基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させるために、学習進度や学習方法を個々の学習者に応じて柔軟に行うこととしている。したがって、到達すべき目標基準はどの学習者も同じであり、到達状況のスコアの分布は正規分布ではなく、高スコアに偏る分布が望ましいことになる。そして教材・教具は、1人1台端末の環境によって、デジタル教科書・教材や学習ログの効果的な活用が期待される。一方「学習の個性化」とは、基礎的な知識・技能などを土台にして、学習者個々の興味・関心などに応じた課題を設定し、学習者自身が最適な学習になるように調整する学びのことであるとしている。したがって、到達目標も学習方法も学習者によって異なるため、評価方法も多様なものになる。目標基準は学習者個々が設定したものになり、客観的な評価ではなく、相互の主観による評価方法などを取り入れるケースもあり得る。当然のことながら、必要な教材・教具も多様なものになり、デジタル教科書・教材や学習ログの活用効果は限定的となる。

 

「協働的な学び」については、多様な他者とともに問題の発見や解決に臨むことを通して、よりよい学びを生み出していくこととし、「個別最適な学び」との一体的化が求められている。「個別最適な学び」のうち、「指導の個別化」との一体化については、習得した基礎・基本を「協働的な学び」に生かすような授業デザインが考えられるが、「学びの個性化」との一体化の授業デザインはどのように考えたらよいだろうか。

 

諸外国でも、学習者中心の考え方を背景に、興味・関心に応じて個別に対応する学びは取り組まれている。米国では教育省が2015年の資料で、学習者への対応レベルによって、個別最適化をIndividualization/Differentiation/Personalizationの3つに整理している(2020年3月30日のコラム「個別最適化された学びと評価のあり方について」参照)。この中で、Personalizationはテーラーメイドの学びとしているため、他の2つに比べて個別対応の変数が各段に多くなり、対応が複雑になる。日本の「指導の個別化」はDifferentiation、「学びの個性化」はPersonalizationとほぼ同じ概念であるから、「学びの個性化」は何を目的にして、どのような変数を設定するかを検討する必要がある。数年前、フィンランドの小学校を視察した際に、興味・関心に応じることの難しさを感じたことがあった。見学したクラスの中にひとりだけヘッドフォンを着けた生徒がいたので、教師に、なぜあの生徒はヘッドフォンをしているのかと聞くと、「あの子は、この授業を受けないことを選択したから授業に参加する必要はない。」という回答であった。それなら教室にいる必要はないのではないかと尋ねると、「クラスのみんなとは一緒にいたいから、授業の邪魔にならないようにヘッドフォンで音楽を聴いている。」とのことであった。「学びの個性化」とは言え、日本でここまで興味・関心に応じることができるだろうか。このヘッドフォンの生徒は、そのクラスでの協働的な学びはできない。このような状況が各生徒の間で起きると、自身の関心分野は深まるが、他の生徒と共有できる要素が限られてきて、自らの世界を広げる可能性を阻むことにもなりかねない。フィンランドの学習指導要領は大綱的で、目標基準はそれをもとに学習者個々に設定するようであるから、日本とは背景が異なる。日本における「学びの個性化」と「協働的な学び」の一体化は、学習者の興味・関心に応じるだけではなく、学習者の興味・関心を広げて可能性を引き出すようなデザインにする必要があるのではないだろうか。

 

GIGAスクール構想による1人1台端末の環境は、「個別最適な学び」「協働的な学び」の推進に寄与することが期待されるが、「指導の個別化」と「学びの個性化」とでは観点が異なる。「学びの個性化」は「指導の個別化」に比べて変数が多く複雑なため、何を目的にしてどのような変数を設定するか、さらに「協働的な学び」とどのように一体化したデザインにするかが重要で、それらを支える考え方を整理しておく必要がある。
(2022.06.17)

新井 健一 -Kenichi Arai-

教育テスト研究センター(CRET) 理事長 / ベネッセコーポレーション顧問

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