CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

日本心理学会第84回大会 発表報告
~日本語版Grit尺度の再検査信頼性――2ヶ月間隔の調査から――〜

 2020年9月8日から11月2日にかけて、日本心理学会の大会がオンラインにて開催されました。国内の心理学会の中でも大きな大会の一つであり、毎年多くの研究者が(例年であれば)主催校の会場を訪れ、議論が交わされます。

 

 2020年度は東洋大学にて開催される予定でしたが、COVID-19の感染拡大を防ぐため、オンラインでの開催となりました。先述のとおり、日本心理学会の大会規模はとても大きく、「学会に行けば全国の知り合いに会える。最近はどのような研究をしているのだろう」という、同窓会のような楽しみを抱いていましたが、今年は画面上で発表を拝見し、思いを馳せるに留まりました。

 

 私はCRET相川研として澤海研究員、澄川研究員、相川理事と実施した研究(日本語版Grit尺度の再検査信頼性)を発表しました。さっそくGritの研究をされている他大学の先生がコメントをくださり、この領域に一定の関心が持たれているものと感じました。

 

 近年話題になっている「非認知能力」の中に「Grit(グリット)」があります。これは「やり抜く力」「根性」などとも訳されており、長期的な目標に対する情熱と粘り強さという2つの側面からなっています。国内外の先行研究において、Gritの高さは大学生におけるGPAの高さと結びつくほか、教員採用試験の合格とも結びつくといった、「達成」に繋がるという研究結果が報告されています。

 

 この概念を提唱したのはDuckworthという研究者ですが、彼女が作成したGritを測定する尺度は、邦訳版が作成されています。邦訳版を作成した研究者の先生方は、この尺度の信頼性・妥当性について丁寧に検討されていますが、一つ未検討の箇所がありました。それは再検査信頼性(安定性)と呼ばれる、信頼性の指標です。

 

 多くの場合、特性(性格といってもよいでしょう)は一朝一夕には変わりません。たとえば、恥ずかしがり屋だった人が、数日後にとても社交的で遠慮のない人に変わっているということは想像しがたいと思います。私たちの研究においても、恥ずかしがり屋(シャイネスといいます)の程度を測定する尺度は、1ヶ月の間隔を置いても、その得点に大きな変化はないことが示されています。

 

 これとGritも同様で、目標に向かって情熱と努力を持って燃えている人が、数日後にはすっかり意気消沈してしまっているようなことは、その間に大きな挫折や失敗などを経験しない限り、考えにくいことです。このように考えると、一定の期間をおいてGritを繰り返し測定した場合、2時点間の相関は高いことが予想できます。そうした結果が得られれば、このGrit尺度が安定した特性を測っていることを示すことができます。

 

 本研究では、大学生を対象に、2ヶ月間の間隔を空けてGritを2回にわたり測定しました。2時点間の相関を調べたところ、Gritの2つの側面(情熱と粘り強さ)は、どちらも強い正の相関関係にありました。したがって、Gritを測定する尺度は一定の再検査信頼性を有することを示すことができました。

 

 稲垣班は本年度、Gritを測定する方法について研究をしています。他の学会や論文でも公表していきますが、Gritを測定する尺度は信頼性・妥当性が示されている一方、課題と思しき箇所もあります。この課題に対し、私たちが得意としている「自己報告によらない方法」でGritを測定することで解決できるのではないかと考え、研究を進めています。

 

 今後は、自己報告式の尺度と、自己報告によらない尺度を併用してGritを多面的に測定し、両者がどのように「達成」に結びつくのかについて、研究を進めていきます。

 

 本年度は大会をオンラインで開催する学会が多く、他の研究者と直接会って議論ができないという点で寂しいですが、移動にかかる時間がないことや、スケジュールの管理もしやすいことは大きなメリットであると実感しました。当初は対面形式で開催が予定されていましたので、それをオンラインに変更して運営するということは、とても大変だったものと思います。柔軟にご対応いただいた主催校(東洋大学)の先生方に感謝いたします。

 

 鹿児島は学会の開催当初は真夏の陽気でしたが、終了する頃には紅葉も始まりました。大学は後期のまっただ中にありますが、授業も研究も頑張っていこうと思いを新たにしました。

 

稲垣 勉・澤海 崇文・澄川 采加・相川 充 (2020).  日本語版Grit尺度の再検査信頼性――2ヶ月間隔の調査から―― 日本心理学会第84回大会発表論文集, PB-007.

 

(CRET連携研究員 稲垣 勉)


稲垣(藤井) 勉 -Tsutomu Inagaki (Fujii)-

CRET連携研究員 京都外国語大学 外国語学部 准教授

趣味:ギター
高校時代からバンドを組んでいて、大学時代は軽音楽のサークルに多くの時間を割きました。バンドは一人だけ上手でもダメで、皆がうまく合わせることで格好がつきます。コミュニケーションにおいて「他の人とうまく合わせる」ことの大事さは、この経験から学んだのだと思います。

研究テーマ:よりよい対人コミュニケーションのとり方や、自己報告ではとらえにくい心の部分の測り方に関心があります。
http://pyfpy037.wix.com/tsut0muf

研究発表論文

2020-07-14

教育テスト研究センター年報 第5号 2020年7月

相川 充

赤堀 侃司

加藤 由樹

加藤 尚吾

竹内 俊彦

舘 秀典

稲垣(藤井) 勉

澤海 崇文

北澤 武

若山 昇

宇宿 公紀

安西 弥生

外山 美樹

小林 輝美

湯 立

長峯 聖人

三和 秀平

酒井 智弘

海沼 亮

能渡 真澄

澄川 采加

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。







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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。







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